現在、日本全国にはランニングイベント、マラソン大会が大小様々2,000以上あると言われている。中でもフルマラソンは47都道府県で開催され、全てではないが県庁所在地で地域の主要幹線道路を交通規制して行われる大会も少なくない。きっかけは2007年2月に開催された東京マラソンの影響が大きいと言える。それまでマラソン大会と言えば郊外の田舎道や河川敷がコースになることが多く、しかも大会の制限時間は概ね5時間。ところが東京マラソンをきっかけに、都心部で開催され、しかも制限時間が6~7時間というケースが格段に多くなった。「東京でできることがなぜこの街でできないのか」という要望が多くなったのかどうかはわからないが、2007年を境にこの現象が顕著になったのは確かである。

募集に苦戦する大会が増えている
なぜこうも大会が増えたのか。一つは日本のランニングイベントが行政主導という点が大きい。一度開催すると数千~1万人の集客も可能なマラソン大会は見た目もやっている感がある。地域住民だけでなく、場合によっては日本全国から集まってくるイベントに成長する可能性もあり、予算もつけやすい。地域の首長さんにしてみると地域振興や街の宣伝という名目にうってつけと言うわけだ。
その一方で募集に苦戦する大会が出てきた。原因は参加者の奪い合い。ランナーと言われる人たちが増えた以上に開催される大会も増えた。参加する側が大会を選ぶ「買い手市場」になった。その矢先、2020年にコロナ禍が襲い、大会は相次いで中止。なかなか再開に踏み切れなかった大会と運よくコロナの波のはざまに開催できた大会との間には特に「参加者募集」と言う点で大きく差が出てしまった。

開催中止は直接、翌年の募集に影響する
松本マラソンもどちらかと言うと運が悪い方と言える。城下町イメージしたコースが設定され、初回大会となる2017年には8,000人以上を集めた。その後、豪雨や台風、コロナ禍で3回の中止。結果、昨年までの8年間で3回の中止は高確率。誰が悪いわけでもなく不幸と言わざるを得ない。
ただこうなるとランナーは非情なもので他大会に目を向ける。年に1回だけ参加する、と言う人が翌年もう一度参加となれば、前年に参加した大会を中心に考える。また年に複数参加するというランナーはだいたい年間の参加大会を決めている。と、なると前年に中止となった大会は選ばれない確率が高くなり、圧倒的に不利となる。そもそもフルマラソンに参加しようと思うとそれなりに練習も必要となり、開催されるかどうかわからない大会をスケジュールに入れるということはあまりやらない。結果、中止となった大会の翌年はほぼ例外なく参加者数を減らしてしまう。中止となった翌年に過去以上の参加者数が集まるのはごく稀なケースと言える。
松本マラソンも例外なく参加者数を減らしてしまった。加えてアップダウンが多いコースということもあって少々初心者には厳しいコース。ならばそういう大会と言うことで開き直ってそれを売り文句にしてしまうことも可能だったが、今から思えばこれも中途半端になってしまった感がある。そして2025年は開催中止。直接的な要因は会計処理に問題があったとのことだが、遠因には募集に苦しんだことが挙げられる。「たられば」を言っても仕方がないかもしれないが募集が順調であれば結果も違ったのでは、と思ってしまう。

フルマラソンばかりじゃなくても良い
最近の大会に感じることだが「何が何でもフルマラソンにしたい」「フルマラソン一択」というこの傾向は何なのだろうと思う。確かに参加する側からするとフルマラソンを完走した達成感は大きいとは思うが、必ずしもそればかりを求めているわけではないだろう。なによりも完走した後の身体のダメージが格段に違う。例えば初めて訪れる場所のフルマラソン参加後に観光に行こうにも時間も体力も気力も残っていないことが多い。一方でハーフマラソンであればそういった余力を残すことは十分可能。
開催する側にしてみるとフルマラソンは周辺道路の長時間の規制やそれに伴う金銭的な負担が大きい。多くのマラソン、ランニングイベントが地域経済の活性化、観光振興を目標にしていることが多いことを考えるとわざわざ大変な労力とお金をかけるのではなくハーフマラソンでも十分目標を達成できるのではないかと思う。遮二無二フルマラソンの開催を目指すのではなく、今一度、冷静に考えなおしても良いように思う。
話を松本マラソンに戻すと、今回の一件でおそらく松本マラソンが再び同じ形で開催されるという可能性はかなり低いと想像できる。が、もう一度ハーフマラソンにリニューアルしてよりいい大会になる可能性があっても良いように思うのは私だけだろうか。
